Studio HAIYAMA
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ブリーズ・ソレイユ
  建築の分野で20世紀近代を切り拓いた巨匠ル・コルビジェは、近代建築が備えるべき最も重要な資質は「涼風と太陽(Breise-Soleil)」である、と宣言した。ヒートポンプ式エアコンが完全普及する少し前、あるいはソーラーパネルがビルを覆うようになるよりはるか前、建築ボキャブラリー自体の工夫で住み心地をカバーしようとの発想であって、今でいうパッシブソーラーである。
 エコロジスト・コルビジェの事績を踏まえつつ、 ブリーズ・ソレイユ復活の可能性を展望してみたい。

サン・ブレーカー!
 ブリーズ・ソレイユが広く認知されるのは第二次大戦後のシャンディガール、マルセイユのプロジェクト以後であるが、コルビジェ作品全集全8冊の第4分冊(1938-46)には、初期の開発過程の要約が英文で掲載されている。
 「・・・近代建築を最も際立たせている新技術はガラス窓であるが、未だ改良しなければならない技術でもある−というのは、緯度によっては、普段は人間の友である太陽がときには敵になるからである。ともかく、冬には太陽の効果を最大にし、真夏日dog-daysにはそれを防ぐための仕掛けdeviceを欠かすことができない・・・1933年、アルジェのアパートメントの南面と西面で、私たちは最初の日射防御システムsun-breakerをかたちにすることができた。」 
アパートメント模型、Algiers1933
 仏語にこめられたあや(亜弥ではない !)を尊重するために、日本人はブリーズ・ソレイユとせっかく難解に詩的に表現してきたのに、コル本人が許容した英語訳はsun-breaker(日除け)であった。換気に留意するも換気量の計量はしていないから、論文としてはこれでよかったのであろう。セル型、ロッジア型(低層アパート用の歩廊兼用型)、垂直フィン型(西面用)など、具体的な緯度別方位別設計マニュアルがまとめられている。
コルビジェによる太陽位置図
 セル型サン・ブレーカーをデザインするための太陽位置図が、作品集vol.8,p74、マルセーユのアパートメントのページに添付されている。理科年表からプロジェクトごとにその場所の太陽位置を求め、得意の作図の腕をふるったものと推察される。ただし日射利用に関する時代の要求精度はここまで、サン・ブレーカーの効果、つまり取り入れた、あるいは防御した日射の量についての言及はない。
 今日私たちは、構想力は凡庸であってもパソコンが使用できる。筆者の研究室で作成した日射計算プログラムHeat-1を使って、コルビジェの構想を後づけしてみよう。
緯度別日射量
 大気の透過率を60%と仮定すると、地球所どこでも日射量は1時間当たり880Wh/uである。6畳用ストーブの発熱量の約1/4、冬期暖房用としてはもの足らないが、夏期には憎たらしい暖房効果である。水平の大地が受ける日射量は太陽高度hの正弦値sinhであるので、形成される平均気温は、赤道直下の熱帯雨林から半年は白夜が支配する氷雪原まで、緯度によって著しい差が生じる。Heat-1を用いて緯度別に水平屋根面と南壁面の終日日射量を求めてみると、次のとおりである。

終日日射量(緯度10°例:パナマ) 終日日射量(緯度30°例:カイロ)
終日日射量(緯度50°例:フランクフルト) 終日日射量(緯度70°例:ムルマンクス)
12月には白夜が見られる
 まずhorizontalと標記した水平面(屋根面)の終日日射量(1日を通じての−)を見てみよう。緯度10°の赤道下では四季別変化が小さく、いわゆる常夏であり、緯度が上がるに従って冬期の日射量が減少する。つまり、高緯度であっても夏は日照時間が長い分むしろ暑く、冬が寒いから平均的に寒いわけである。ちなみに夏期終日日射量の7000Wh/uとの数値は、6畳用ストーブを2時間ほど燃やした熱量である。
 南壁面の日射量を見ると、サン・ブレーカーの眼目が一層明らかになる、つまり、緯度が高くなるほど、太陽高度が低くなる分日射量が増える。高緯度のヨーロッパ人であるコルビジェであっても、日射はまず防御すべきものとして捉えた心情-ではなく知性が、以上の4図からよく理解できる。

マルセーユのアパートメント
 マルセーユアパートメントの住戸はご存じのとおり2間幅!のウナギの寝床、東面か西面の吹き抜けリビングの背高開口部に、朝か夕方、ものすごい量の日射が殺到する(下図参照)。
住戸の縦断面図 夏至における時刻別西面(左)、南面(中)日射量(緯度43°)
 南北軸上に住棟を配置した理由は、北側地面に大きな影を落とさないためである、と推察されるが、その結果、太陽高度が低い朝か夕に、リビングルームに、南面窓の3倍ほどの日射が入る。ベランダ側壁と水平フィンで構成されるセル型サンブレーカーがこれを防ぐわけであり、筆者の試算によれば、吹き抜けリビングルーム側で56%、その反対の子供室側で72%低減している。大健闘である。
極北のソーラーハウス
 緯度35°(東京以西)の日本では、夏期南中時太陽高度は78°、したがって夏には太陽は頭上から、屋根の上に射すとの実感があり、そのせいか日射利用はすべて屋根の上で行う。しかし、コルビジェなどヨーロッパ人は、太陽は窓から射すもの(南中高度50゜台)と実感しているのではないか。エアコンがあるとつい忘れてしまいがちな「窓からの日射」、よく留意しておきたい。
 ところでーあるいは従って、高緯度のイギリスでは日射採暖は窓から行う。石造レンガ造の厚い壁の外側にガラス温室が備わる住まい、というのがおなじみの観光写真的風景であるが、実はガーデニングの趣味はそこそこ、ガラス温室は実用的なリビングのエクステンションであって、ガラスの温室効果と壁の熱容量が暖房経費を大いに低減する。100%パッシブソーラーなので、晴天率をコストにはかる必要もない。
 近年は断熱効果の低い石造りには反省があり、エコハウスは木造で建つ。その場合の熱容量は床をコンクリートにして得るとのことであるる。スコットランドの北端、北海に開けるフィンドホーンで見たソーラーハウスを以下に紹介する。冬季の太陽南中高度はたったの9゜(東京以西の日本では31゜)、白夜でないのが幸いという極北の土地で、ソーラーハウスはよく効くのである。


 日本では、特に私が住む広島では、ソーラーハウスの意義はゆるぎないものとしてもどこに焦点を絞るか。多分ケースバイケース、無敵の万能ソーラーは実在しないのではないか、と思う。

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to be continued